(1)尊大で威圧的な「パワハラ上司」
【傾向と特徴】
・仕事はできることが多い
・意思決定は早い
・パワフルで熱意がある
・目の前のことに集中し、周囲が見えなくなることも
・自分で仕事をこなしたほうが速いので、あまり部下に仕事が回ってこないことも
【注意点】
・成功体験に固執し、あまり人の意見を聴かない
・自分の考え、やり方を押し付ける
・実績があるあまり、尊大で威圧的にふるまうことあり
・部下の一度の失敗で、「コイツはダメ」と決めつけてしまう
・気分で理不尽に怒ることも
【口ぐせ】
・オレの言うとおりにやってりゃいいんだよ
・それは違うんだな~
・言ってる意味わかる?
【地雷】
・そのやり方はもう古いですよ
・お言葉ですが、この件については検討済です
・そう判断された根拠は何ですか?
【ウケるセリフ】
・本当に勉強になります!
・さすがですね~
・宜しければこんど飲みながら、いろいろ教えてください!
【分析】
プレイヤー時代に実績をあげてきた「名選手」タイプが多いです。ただし、どこの世界でも「名選手=名監督」とは限りませんからね。なまじ仕事ができる人である分、部下は苦労することが多いものです。
特に困るのは、仕事について「上司なりの正解」みたいなものを持っていて、それを部下に押し付けてくるタイプ。上司の過去の成功体験に基づいたものだと思われますが、時代や環境が違うと応用できないものもあるんです。でも、「こういうお客さんにはこうアプローチすべきなんだ!」と決めつけ、他のやり方を認めなかったりすることも。
また、自分ができてしまうだけあり、部下がモタモタしてると気になってしまい、つい厳しい口調になってしまうことがあります。同じように、少しの失敗で「コイツはできないヤツ」とレッテルを貼ってしまうことも。
現役時代、業績が良いばかりに、あまり周囲から意見を言われる機会もなかったんでしょう。中には傍若無人にふるまい、威圧的な雰囲気が板についてしまった人もいます。これじゃあ周囲も委縮しますし、部下もなかなかやりにくいんですよね。
【対策】
仕事ができるがゆえに強気なタイプの人は、往々にして「自意識」とか「自尊心」、「プライド」といった要素がきわめて強いという特徴があります。特徴さえつかんで適切な対応ができれば、付き合いにくい相手ではありません。
まずは、上司を「安心」させてあげてください。あなた自身が完璧に仕事をこなして実績を出し、上司から仕事能力を認められるのがもっとも確実なのです。そうすれば、上司はあなたのことを「何人かいる部下のひとり」ではなく、「パートナー」として扱ってくれるでしょう。
最初から完璧にやり切るのは難しいですが、まずは上司の本音を汲んだコミュニケーションをとり、小さいことでもいいので「この仕事については、自分は確実にやる」という専門分野、得意分野をつくり、着実に結果を残して信頼を得る。この流れを繰り返すことができれば、あなたの実力も自然とつくはずです。
上司のほうだって、自分で抱え込んでやっていくのは大変です。そんな信頼できる、腹心的な部下は常に欲してるんです。懐に飛び込んだ者勝ち、といったところでしょうか。
注意すべきは「リアクション」ですね。自意識が強いので、自分に対する言動には過剰に反応するタイプが多いんです。したがって、部下としての態度や話し方、マナーなど、基本的な勤務態度には留意して、礼節を尽くしましょう。
あと、あなたのほうでもあまり意地をはらずに、上司のことがすごいと思ったら「すごい!」「いいですね!」「さすがですね!」などと、言葉を惜しまずに賞賛することが自然にできればいいですね。もし人間性で尊敬できないところがあっても、ビジネスパーソンとしての実績については別枠で捉え、「いいものはいい」という態度でいいじゃないですか。もちろん、心にもないことは言う必要ありませんが。
このように、懐に飛び込んでしまえば意外とうまくかみ合ったりするものです。なんなら、思い切って「一緒に飲みに行きましょう」なんて誘ってみるのも有効な手段です。多少の説教と自慢話を覚悟する必要はありますが、いい関係が築けることは間違いありません。
(2)理詰めでクール「ロジカル上司」
【傾向と特徴】
・いつも冷静で論理的
・意思決定は早い
・すべて数値化して考え、表現する
・ルールを守る
・好き嫌いではなく、客観的かつ公正に評価する
【注意点】
・常にクールで落ち着いているので、冷たい印象を受けることも
・何事も合理的に、割り切って判断する
・自分の持つ結論に自信があり、それを絶対と考える
・他人の気持ちや思いにはあまり配慮がない
・アドバイスのはずが、静かにツメられている感じになる
【口ぐせ】
・だから何?
・なんでそう思うの?
・具体的にはどういうこと?
【地雷】
・こんな感じじゃないかと思うんですよね~
・みんなそう言ってますよ
・イメージ、これがいいんじゃないでしょうか。直観ですけど
【ウケるセリフ】
・今回の提案の結論は○○です。根拠は3つあって、具体的には…
・調査の結果、対象者の86%が賛成との反応でしたので、実施したく考えます。
・●●部長の指示です
【分析】
常にクールでロジカル。経理財務部門とか、技術系の部署にいくとよく見かけるタイプです。思考様式は理系的で、数字やデータを多用します。どうしても機械的で冷たい印象になるため、苦手な人にとってはすごくとっつきにくく思われるんですが、あまり好き嫌いといった個人的な感情で判断しないため、評価としてはフェアである可能性が高いですね。
自分の意見に強い自信を持つ人が多いです。その点は「パワハラ上司」とも似てるんですが、「パワハラ上司」の意見は「個人的な経験と実績」に基づいたものなのに対し、「ロジカル上司」は「具体的な根拠とロジック」に基づいたものなので、けっこう納得感があります。それゆえ、「上司の上司」から信頼されてることも多いですね。
一方でマイナスの影響として、相手の気持ちや思いについてはあまり配慮せず、自分と違った視点や考え、やり方を受け入れにくいタイプでもあるのです。「自分の考えは客観的に正しい」という自信があるので、ひとりよがりになってしまうのです。人によっては、細かいことまでネチネチ追求するタイプになってしまうかもしれません。
【対策】
もっともてっとり早いのは、あなた自身が「ロジカルさ」を身につけて、ロジカル上司との「共通言語」を持つことです。もうこれだけで、上司とは連帯感のようなもので結ばれることでしょう。
ロジカルというとなんだかややこしそうですが、心がけることはシンプル。
・自分の意見を言う前に、「論拠」(なぜそう考えるのか)と「結論」(結局、何を伝えたいのか)を整理する
・結論と論拠をセットにして、「結論としては●●です。なぜなら…」と筋道を立てて伝える
・説明は「ポイントは3点あります。1つ目は…」と、相手に分かりやすいように簡潔に話す
この3点を普段の会話や文章で意識することをお勧めします。
このタイプの上司とはどうも合わない、という人もおられると思いますが、「デキる上司」と呼ばれる人は多かれ少なかれ、このロジカルさを身につけているものです。あなた自身の思考パターン、行動パターンが広がるチャンスでもありますし、相手が「ロジカル上司」かどうかに限らず有効な方法ですから、ぜひやってみてくださいね。
(3)「気合で頑張れ!」が口グセ「精神論上司」
【傾向と特徴】
・基本は体育会系
・やる気はあるが、仕事がデキる人も、デキない人もいる
・難しいことを考えるのは苦手
・部下や後輩の面倒見はいい
・自慢話が大好きで、同じ話を懲りずに何度もやる
【注意点】
・人柄はよいが、熱意がありすぎで空回りすることも
・仕事は行動量でカバーするタイプ。部署として残業が多くなる
・うまくいかない原因が「気合」の有無になりがちで、根本的な問題解決にならない
・部下への指示にロジカルさがなく、クレバーな部下からは軽くみられがち
・頼りにされないと、寂しがる
【口ぐせ】
・気合でやれ!/気合が足らん!
・じゃあ飲みにでも行こうか!
・お前それでもプロか!? 根性がないぞ!
【地雷】
・あ、コレ、私一人でやりますから…
・スミマセン…ちょっと微熱があるみたいなんで、今日はお休みさせてください…
・飛び込み営業なんて効率悪いやり方より、メールのほうがいいですよ
【ウケるセリフ】
・スミマセンッ!気合が足りませんでしたっ!! 気持ちを入れ替えて頑張ります!!
・他ならぬ○○課長にこそ、私の悩みを聴いて頂きたいんですよ…
・私、△△部長のお蔭で、営業の楽しさに目覚めた気がします!
【分析】
私自身、「給料をもらって働いてるなら、気合と根性はあって当然」という考えを基本的に持ってますから、このタイプの上司の気持ちはよく分かります。ただ、気合と根性だけでは解決できない問題がたくさんあるし、具体的な解決策を出してくれないことには、部下としてどうしたらいいか分かりませんよね。
このタイプの上司は、いわゆる「昭和的価値観」というものを持ってます。具体的には先ほどの、「気合と根性はあって当然」のほか、「上司は部下に指示、指導するもの」、「部下が指示に逆らうのはありえない」、「部下の成長は自分の責任」、「体調管理は自己責任」、「プライベートの時間を割いてでも、自腹を切ってでも、部下の面倒をみるのが上司の役割」、「給与や福利厚生ではなく、仕事そのものが報酬」…といった考え方ですね。
皆さんにとっては「ありえない」「受け入れがたい」ものもあるかもしれませんが、彼らにとってはそれが「当たり前」で、その価値観の中で育ってきたんです。まずはそういう前提条件がある、という認識から始めましょう。暑苦しいこともあるでしょうが、それが上司からあなたへの愛情のあらわれなんです。
【対策】
このタイプの上司への対処法は、今回紹介した4パターンの中でもっともシンプルです。「自分が一生懸命頑張っている姿を見せる」こと。これに限りますね。とにかく、上司にとっては部下の「一生懸命取り組む姿勢」がかわいいんですよ。
恐らく、頭のいい部下にとって、このタイプの上司は苦手なはずです。なぜなら、業績の原因はすべて「気合と根性」。「なぜこんな結果になったのか?」というロジカルな分析がなされないことが多く、もどかしく思うこともあるでしょう。で、「この上司は間違ってる!」といちど感じてしまうと、その反感をなくすのは困難でしょう。
でもあえて、この機会に「昭和的価値観」に沿って仕事してみることをお勧めします。予算未達成を真剣に悔いる。休暇取得や病欠を「当然の権利」と思わずに、周囲への配慮を示し、「こんな大事な時期に病気なんて…くやしい!」という気持ちになってみる。そういったスタンスで仕事をしていれば、上司はむしろあなたの味方になってくれることは間違いありません。
相手はお客さんでも上司でも同じです。「どうすれば目の前の相手を喜ばせられるか?」と考えて仕事すれば、自然に成長もできますよ。
(4)無責任の保守本流、事なかれ主義「無気力上司」
【傾向と特徴】
・仕事は遅く、成果も出せない
・意見がコロコロ変わり、指示したことも忘れる
・仕事は丸投げで、責任もとらない
・優柔不断で、はっきりと意思決定をしたがらない
・他人に興味がなく、相談しても有効な回答が返ってこない
【注意点】
・本当に無気力なパターンと、やる気はあるがマイペースのパターンがある
・問題があっても問題と感じず放置してしまうので、周囲はトラブルに見舞われる
・面倒なことは避けたいので、大きなプロジェクトなどには逃げ腰
・基本的にネガティブで、よくわからないものには反対姿勢をとる
・たまに「自由にやれ」と懐が広いところを見せるが、やはり責任はとらない
【口ぐせ】
・ボク、よくわかんないんだよね…まあ、適当でいいよ
・あとはやっといて。よろしくね~
・え!? そんなこと言ったっけ?
【地雷】
・ぜひ、今すぐご決断をお願いします!
・多少リスクはありますが、この新しい企画をやってみたいんです!
・スミマセン…プロジェクトの今後の方向性と私のキャリアについて相談があって…
【ウケるセリフ】
・○○さんにはラクをして頂きたいんですよ!
・我々で巻き取って進めますので!
・(ネガティブな人に対して)ご指摘ありがとうございます!
【分析】
部下の立場でもっとも対応しにくいのが、この無気力、無責任、保守的なタイプの上司ですね。どんな組織であれこのタイプの人は存在していて、一定の勢力を誇っています。
上司が無気力だと、「あ、この会社はこの程度で大丈夫なんだ…」という「暗黙の了解」みたいなものができてしまいます。その影響が全社に及んでしまい、あらゆる社員にサボリ癖がついてしまう、ということになりかねませんね。もちろん、本人たちはそれが「当たり前レベル」ですから、サボっている意識はありません。そんな環境に入ってしまうと、あまりのゆったり感に愕然としてしまうこともあるでしょう。仕事に熱くなる自分の方がむしろ浮いてしまったり、頑張れば頑張るほど自分だけに負担がかかり、不本意な思いをしたりすることさえありえますよね。
さすがに、成長中の新興企業だとあまり見られませんので、この現象は「そんな無気力社員でも養うだけの余裕がある会社」限定なのでしょう。また、そんな社員でもクビにならずに済んでいる日本の寛大な労働基準法…それなりにいいことなのかもしれませんが、働く側はやってられません。どう考え、どう行動したらいいんでしょう。
【対策】
対処方法は大きくふたつに分かれます。「上司だけが問題」の場合と、「周囲メンバー全員やる気なし」という場合ですね。まず前者からみていきましょう。
件の上司だけが問題と感じる場合、周囲のやる気ある同僚と結託して、自分たちのやりたいように仕事すればいいんです。基本的に、無気力上司は「事なかれ主義」で、何か面倒なこととか、責任を負うような事態を避けたがります。逆に言えば、その部分を自分たちで担保すれば、「じゃあ、好きにやってよ」となる可能性が高いんですね。ぜひ、実現したい仕事のシナリオを創っておいてください。上司が言いだしそうな「ネガティブで保守的な批判」を先取りしておき、「その際のリスクは…」「メリットは…」とメンバー全員で説明できれば、「ま、全部やるといってるし、手離れもいいからまあいいか」と判断することでしょう。成果となれば、自分たちの実績になりますしね。
「周囲メンバー全員やる気なし」の場合、どうしても周りが気になって、やる気のない人々に憤りを感じることもあろうかと思いますが、もう割り切って過ごすほうがいいですね。あくまで「自分中心」で大丈夫です。いくら周囲の仕事が遅かろうが、自分のペース、自分のリズムで仕事する。自分なりに仕事を効率化して早めに済ませ、定時になったらさっさと切り替えて自分の時間を楽しむ。それで充分です。
もともと会社なんて、赤の他人が集まってる場所ですから、自分と比較しても時間とエネルギーのムダです。貴重な自分の人生をムダにしない、と決意して日々を過ごせば、精神的にも肉体的にも楽になりますし、着実に自分自身も成長していけますよ。広い世の中に目を向けて過ごしていきましょう。
入りたい会社は選べても、残念ながら配属とか勤務地、そして上司は選べません。そして、入社後「こんなはずじゃなかった…」と嘆く若手社員の話を聴くと、だいたい「上司と合わなくて…」という答えが返ってきます。
会社も仕事も、今の上司との付き合いだって、単なる運であり、めぐりあわせです。しかもあなたの長い人生の中、本当に一瞬の出来事でしかないんです。でもその運に振り回されて、一喜一憂してしまうのはもったいないですよ。
そのためにすぐできる対策を、これまで述べてきました。本書は、あなた自身の「物事の捉えかた」「反応のしかた」を変える、「自分マネジメント」本であると同時に、上司や周囲に働きかけて、あなたが働きやすい環境をつくる「周囲マネジメント」本でもあるんです。周囲にはリソースがたくさんありますから、ぜひ活用してくださいね。
上司も先輩も同僚も、単なるひとりの人間です。長所もあれば、欠点もありますよ。あなたが「過剰な期待はプレッシャーだ!」と感じるのと同じように、「上司/先輩なんだから、これくらいのことができて当然だろ…」というのは、彼らにとってプレッシャーなんです。あくまで、一人の人として考えてくださいね。そして、上司とか先輩とかは関係なく、「身近な人たちから、自分は何を引き出し、学べるだろう」と考えて接してみてください。
さらに、「上司対部下」「先輩対後輩」といった対立軸で考えるのではなく、「同じ組織のメンバーとして、共通の目標を追う同士」と考えてみてください。その上で、あなたから積極的に関わりを持って行ってください。それだけでも、日々の楽しさはだいぶ変わりますし、5年後、10年後のあなたを大きく変えますから。
今の環境が不満だといって会社を辞めても、新しい会社では同じように理不尽な上司がいて、厳しい先輩がおり、ありえないノルマが待ってます。その辺の条件は、どこにいても一緒なんですよ。まずは今の壁を乗り越えましょうよ。場所を変えるより、自分が変わったほうが確実ですから。そして、相手が変わるのを待つよりも、自分が変わりましょう。そうなれば、職場に居場所ができます。周囲の人は、あなたの味方になることは間違いありません。