1:退職意思を切り出す時期とタイミング
あなたが勤めるブラック企業側に辞める意思を伝えるのは、転職先の会社から正式に書面で「内定通知書」が発行されてから、というのが大前提です。過去、この書面が発行される前の「口頭内定」段階で退職交渉をスタートさせたものの、応募先企業から「やはり諸般の事情によって採用のお話自体なくなってしまった」と通告を受け、結局内定は取り消し、在籍企業にも居られなくなってしまった、といった事例はしばしば発生しているので、くれぐれも慎重を期しておきたいところです。
先ほど「期間の定めのない労働契約の場合は2週間前に退職を申し出ればよい」と述べましたが、これはあくまで法律上の規定のお話。実際には業務の引継ぎや有休消化も見込んでおく必要があるし、会社側には代替要員確保のための時間も必要でしょう。無用なトラブルを避け、退職自体を円満に済ませるためにも、実際に出社しなくなる日の最低でも1ヶ月前まで、余裕をもって2ヵ月前を目処に退職意思を伝えておくのがよいでしょう。
タイミングとしては、それぞれの会社における「仕事のヤマ場」を避け、状況を見ながら判断することをお勧めします。また、転職への意志が固く、ムダな話し合いに巻き込まれたくない場合は、あえて「金曜日の就業間際」を狙う、という手が有効。その場では上司に「週末でじっくり考え直してみろ」などと慰留されるかもしれませんが、週明け出社した際に「じっくり考えましたが、やはり気持ちが変わりませんでした」と返すことができるためです。
2:スムーズな「退職意思の伝えかた」
まずは「退職届」を用意しましょう。詳しい退職理由などを書く必要はまったくなく、シンプルに以下のような書式で大丈夫です。
退職届
私事、
一身上の都合により、来る令和○年○月○日をもって退職致します。
令和○年○月○日
○○事業部○課 退職太郎 印
○○株式会社 代表取締役○○殿
あとはこれを渡すだけ。法律上、2週間後にあなたと会社との労働契約は終了します。
ちなみに渡す相手は「直属の上司」宛になります。いくらあなたが直属上司を忌み嫌っていたとしても、「上司の上司」や「人事部門」に直接行ってしまうと、直属上司が「面目を潰された!!」などと逆上し、今後の交渉にもいらぬ手間が掛かってしまうかもしれませんので注意してください。
ここで大事なのは「退職意思を伝える」ということであって、間違っても「退職しようと思うんですけど…」などと「退職相談」になってはいけない、ということです。相談のスタンスで臨むと間違いなく引き留めの機会を与えることになってしまい、「どうしたんだ、まあじっくり話し合おう…」などと言われて交渉が長引き、余計なエネルギーがかかることになるのは間違いありません。仮に丁寧な言葉を添えるとしても、
「今までお世話になりありがとうございました。私、この度○月○日付で退職致したく、報告に参りました」
くらいで充分でしょう。
転職理由や現社への不満など、多くを語れば語るほど引き留めのための材料を与えることになってしまいます。あなたの転職への意志が堅いれば堅いほど多くを語らず、仮に理由を問われても将来の目標などを交えてポジティブかつ穏やかに話しておく程度でよいでしょう。ここでは不要な波風は立てず、気持ちよく会社を去ることを心がけておきましょう。
3:「退職は認めない」などと、退職を強引に引き留められたら
まともな会社であれば、退職するあなたを慰留こそすれ、退職手続を妨害するなどということはないはずです。なぜならそれは、法律で認められているあなたの「退職する権利」をも妨害していることとイコールであり、遵法意識が極めて低いと自ら示していることになるから。したがってこの項目(3-3)にまつわる対策が必要な会社なら、あなたも辞める決断をして正解だったかもしれません。
まず大前提として、会社側からいくら「退職は認めない」と言われたとしても、その言葉には何の効力もありません。繰り返しになりますが、あなたは少なくとも2週間以上前に会社に退職の意思表示をしており、法律であなたが辞める権利は認められているからです。
とはいえ、会社が「退職届は受け取らない」「退職するなんて聞いてない」などと言い張るケースはよくあるので、事前に対策をしておきましょう。
まず「聞いてない」と言わせないためには、あなたが確かに直属上司に退職意思を伝えた証拠を残しておく必要があります。上司とやりとりする際には念のため、口頭だけでなくメールでも「先日お伝えした私の退職の件、退職日は12月末付、最終出社日は12月13日ということで大丈夫でしたでしょうか」などとやりとりし、記録を残しておくことをお勧めします。
そして「退職届は受け取らない」と言われたときも対処法は簡単。用意しておいた退職届を「内容証明郵便」で会社宛に送ればよいのです。
「内容証明郵便」とは「いつ、誰が、誰宛に、どんな内容の文書を送ったのか」ということを証明する郵送方法であり、郵便局で扱っています。
差出方法がややこしいのですが、最近ではWordファイルをアップロードすれば印刷・封入・発送まで全て郵便局でやってくれるサービスもあるので利用するとよいでしょう。
この「内容証明郵便」により、あなたが会社に「退職届を発送したこと」「発送日」「退職届の内容」を郵便局が証明してくれるので、会社には確実に退職意思が伝わり、かつ証拠も残ることになります。これで会社側は「退職なんて聞いていない」と言えなくなりますし、万一法廷での争いになったとしても、「退職の意思表示をした証拠」が明確である以上、あなたが不利になることはないのです。
「内容証明郵便で送ったとしても、会社側が受取拒否したらどうなるの…?」と心配される方がおられるかもしれませんが、その点も大丈夫。仮に受取拒否したとしても、法律上、「郵送した退職届が会社に到達した時点で、退職の意思表示がなされたものとする」と解釈されているのです。
民法第97条(隔地者に対する意思表示)
1 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
受取拒否した時点で会社側には退職届が到達しているということなので、その時点で退職の意思表示が発効するというわけです。したがって、到達日から2週間であなたは会社を辞めることができます。
最初から退職交渉が揉めることが分かっていて、「円満退職でなくてもよい」と腹がくくれているならば、直接この段階からスタートするのもありでしょう。
4:「至らない点は改善する。給料も上げるのでなんとか残ってほしい」と懇願されたら
実際のところ、あなたが辞意を表明した際のもっとも可能性の高い会社側の反応は、「退職など認めない!」よりもこちらの「なんとか考え直してもらえないだろうか…?」のほうでしょう。
確かに、世の中に「完璧な会社」は存在しません。転職活動を経れば、さまざまな会社があることがよくわかるはずです。給料は良いけど、人間関係がドライそうな会社。条件は問題ないけど、通勤にやたら時間がかかる会社… 活動を通してあなた自身が重視する要素を再確認でき、「今の会社もまんざらではないな…」という思いを抱けたのであれば、「残留する」という選択肢があってもいいかのもしれません。
あなたが上司に対して「少し時間をもらえませんか」と言い出した時点で、上司はあなたの退職を覚悟するはずです。部下の退職は上司の評価が下がることに繋がるかもしれません。なんとかしてあなたを説得し、退職を思い留まらせたいと考えることでしょう。そして、このような魅力的な提案をしてくるのです。
「お前はかけがえのない存在なんだよ…」
「来期にお前の昇格を考えてたんだよな…」
「○○部長も、お前をだいぶ評価してたぞ…」
「給与金額なら何とかできるように考えるから…」
「問題があるメンバーがいるなら、そいつの配置転換も視野に入れるし…」
しかし、この時点でのオファーがいくら魅力的なものだとしても、すぐに応じずに冷静になって頂きたいのです。あなたは今まで、劣悪な労働条件に耐え忍んで頑張ってきたはず。そんなあなたが辞めると言った途端に待遇改善を持ち出すのはフェアではありません。できるならもっと早くやれ、という話です。しかも、一介の上司にそこまでの権限があるのかもよく分かりません。
そして、その改善提案が本当に実施されるとしても、あなたはそんな会社にずっと勤め続けたいと本気で思っているのでしょうか。退職理由は本当に待遇だけだったのか。「一度は辞めようとした問題児」として不当な扱いを受けるリスクはないだろうか。実際、引き留めを受けて会社に残ることを選択したものの、結果的に約束されていた待遇アップなどは全く実現しなかったケースもしばしばあるものです。もしそんな未来が想像できるのであれば、やはりその会社は辞めた方がよいのかもしれません。
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